2014年10月10日金曜日

〇発表 要旨〇中野 阿佐子(D1)

形容詞「こわい」と「おそろしい」の一考察
―コロケーションに見る類似点・相違点―

本研究では恐怖を表す代表的な形容詞「こわい」と「おそろしい」について、コーパス(NINJAL for BCCWJ)を用いた[こわい/おそろしい+名詞]のコロケーションの分析から、その類似点と相違点を明らかにする。
ジャンル・年代別出現頻度と助詞に基づく統語関係に関して、両者間にはr=.82r=.81という強い相関がみられる。両者はとりわけ(1)に示す「もの」「こと」との共起頻度が高く、(2)を含んだ「こわい」との共起語上位10語はすべて「おそろしい」とも共起関係にある。したがって加藤(2009)でも指摘されるように両者の類似性は明らかである。

(1)  -の、-もの、-ん、-こと、
(2)  -顔、-話、-人、-思い、-夢、-ところ

一方、以下に示すように共起関係には偏りがみられる。(※ここでは上位50語において共起が見受けられないことを?で示す)

(3)  a.-顔
b.(?こわい/恐ろしい)形相
c. (
こわい/?恐ろしい)顔付き
(4)  a. -人、-奴
b.(
?こわい/恐ろしい)人間、人物、男
c.(
こわい/?恐ろしい)おばさん、おじさん、父親、先生
(5)  (こわい/?恐ろしい)馬、動物、映画
(6)  (?こわい/恐ろしい)出来事、事件、事態、事故、殺人、犯罪、現実
(7)  (?こわい/恐ろしい)光景、音、力、勢い

「こわい」は(3c)和語あるいはより砕けた表現、(4c) (5)具体的な人物や対象物との共起が認められる。一方「おそろしい」は(3b)漢語や固い語で、 (4b)ある程度の抽象度を保った基本レベルの語彙、あるいは(6)抽象的な事象や(7)視覚、聴覚等の五感にかかわる語と共起する。ここに明示される両者のふるまいの違いは、「こわい」の方が話者にとってより直接的で具体性の強い恐怖感を表すことができ、「おそろしい」の方がより抽象的あるいは客観的な恐怖感を表すことができるということである。ここから「おそろしい」は「想像すると」といったより間接的な恐怖感を含む解釈が可能となることが説明される。
本研究では、「こわい」と「おそろしい」の類似点と無意識的な解釈と使用の区別をコロケーションの観点から分析し、考察した。
参考文献
石川慎一郎.2012.『ベーシックコーパス言語学』ひつじ書房
加藤恵梨.2009.「「こわい」と「おそろしい」の意味について」『名古屋大学日本語・日本文化論集第7号』pp1-20
後藤斉.1995.「言語研究のためのデータとしてのコーパスの概念について―日本語のコーパス言語学のために―」『東北大学言語学論集』4
寺村秀夫.1982.『日本語のシンタクスと意味 第Ⅰ巻』くろしお出版
中村明.2010.『日本語 語感の辞典』岩波書店
Leech, G. 1991b  Corpora. In: Malmkjaer (ed.) , The Linguistics encyclopedia,
London: Routledge.
Sinclair, J.  1991 Corpus, concordance collocation.  Oxford: Oxford
University Press.

参考URL
NINJAL-LWP for BCCWJ
http://nlb.ninjal.ac.jp/search/
KOTONOHA少納言

              http://www.kotonoha.gr.jp/shonagon/search_form

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